2.08.2011

きっかけは借りた本だった

「アメリカで生活した事のあるヤツにさ~、これ読んでもらって感想を聞いてみたいんだよね」と上司に渡されたのは、真保裕一の「栄光なき凱旋(2006)」。元々、小説をほとんど読まない僕にとって1,500ページもある大作は、気軽に差し出されても受け取る事すら躊躇してしまう。更にこのタイトル。英訳すると、”Triumphant Return without a Glory”となるだろうか。悲しすぎる...そして重い。受け取って、机の引き出しにしばらく放置してみたが何も変わらず、そろそろ感想を聞かれるだろうからという理由でようやく読み始めてみた。


沈没した戦艦の上に建てられたUSSアリゾナ記念館
2010年11月
1941年12月7日。日曜日。07:49。ハワイや西海岸にて生活する日系人たちを極めて困難な立場に追い込む事となるパールハーバーの攻撃が始まる。それまでは白人と平等に勉学に励み、就職先を探し、夢を抱き、恋をする生活を送っていた人の若者は、戦争によって国と国との狭間に立たされることとなる。白人がひしめく大手銀行への就職を決めた、日系二世のエリート、ヘンリー・カワバタ。母に捨てられ、日本で苦しい幼少期を過ごした、帰米二世のジロー・モリタ。白人の恋人と大勢の仲間をもつハワイの帰米二世、マット・フジワラ。両親の祖国であり自身に流れる血は、時としてアメリカに対する想いや価値観とぶつかりあう。

本当の自分は誰なのか、心が揺さぶられる若者たちの姿は、2カ国に属しながらどちらにも受け入れられていないのではと悩んだ自分の大学時代に共通するものがある。太平洋が隔てた2つの国。どちらにも受け入れられ、どちらにも中途半端な存在。そんな過去の事を思い出しながら、気が付いたら本を置けなくなってしまった。

日本とアメリカの両方で生活したことのある人、複数の文化で育った人、二世、サンセイ、帰国子女、留学生、ガイジン、バイリンガル人、バイカルチャル人。山崎豊子の「二つの祖国(1983)」とともに、是非そんな人たちにこの本を読んでもらいたい。

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