9.03.2011

トルコの穴場

人口1250万人の巨大都市、イスタンブールを脱出したい僕らは早速行先の下調べを始めた。自然や文化を対象とした9つの世界遺産がユネスコに登録され、西はエーゲ海、南は地中海など美しい海に取り囲まれるトルコは自然も古代都市も見どころ満載だが、気をつけて選択しないとまた団体様御一行と合流してしまうことになる。僕らが選んだ場所は、北に広がる黒海へ面した小さな町アマスラ、沿岸部を更に東へ進んだトラブゾン、そしてアナトリア高原の中央に広がる世界遺産、カッパドキア。時間は7-10日で仮設定した。


決めたら行動は早い。荷物を奪還した翌日の朝に長距離バスターミナルへ行き、百社はあるであろうバス会社の中からアマスラ行の夜行バスを探して予約。いつも通り出発の一時間半前に再び訪れ、数十台並んだ中から正確なバスの乗り場を探す。トルコには長距離列車もあるが、バスで移動するのが主流らしい。大型バスはどれも新車のようにキレイで、行先に到着すると男の子がバケツとブラシを持って現れ、丁寧に洗車をしている。車内ではアテンダントが飲み物やお菓子を配り、サービスも抜群にいい。寝台ではないので決して寝やすいわけではないが、とても快適である。
 
 
 
朝の7時にアマスラへ到着。崖のような高台に囲まれ、黒海の静かな波がとても美しいこじんまりとした町。正にこんなところに来たかった、とサエと顔を見合わせてから朝食を探す。トルココーヒーとチャイを贅沢な気分で味わい、お次はバスのスケジュールを確認。近くの町からトラブゾン行の直行便が毎日出ている事を確認できたが、ここへ何日滞在するかは不明なので予約はせずに最後の宿探し。探すといっても大きなカバンを持っていると向こうから声をかけて来るので、ここで安価な宿に泊まろうと思うなら動き回らずに待っているのが正解なのかもしれない。歩き始めてすぐに我々を呼びとめてくれたのは、おばあさんと片言の英語を話す中年女性。どうやら親子のようで、しきりに「シービュー、シービュー」と言っている。…あ、景色ね。微笑んだ笑顔がとても優しく、それで決まり。重いバックパックを背負って坂を登り、更に階段を進む。着くとそこはサンルームから黒海を望めるアパートだった。どうやら不在のお姉さんの住まいらしく、家具が一式揃っている。キッチンもあり、これで一人当たり1200円。イスタンブールで泊まった三十人部屋とほぼ同額でこのゆとりはありがたい。
 
 
ここアマスラは、ローマ帝国時代に築かれた城とビザンツ帝国時代に加えられた砦のような城壁を中心に人々が生活しており、細い傾斜の路地に重なり合うように家が建てられている。迷いながら上へ上へ進んでいくと、崩した積み木のように家々が立ち並ぶ町とその先に広がる内陸の海朝は静かだったビーチには余暇を過ごす国内の旅行者や地元の人々が寝そべり、緩やかな空気が静かに流れている。あまりにも気持ちよさそうで、僕らも水着に着替えて泳いだり横になったり、とゆったりした時間を過ごす。だいぶ気持ちがほぐれたが二泊目は必要ないと思い、翌日の便で次の目的地に向かう事を確認し、就寝。
 
 

 
翌日。朝をのんびり過ごしてから昼時にバスの予約をしに行くと、なんとトラブゾン行の空席が一席しかないとの事。しまった…のんびりし過ぎた。親切な住民の力を借りて他のバス会社を当たってみるが、どう乗り継いでも丸一日を無駄にしてしまう。仕方が無い。予定を変更し、夕方の便で首都アンカラを経由してカッパドキア地方の町、ギョレメへ向かうことにした。朝6時の到着だがなんとかなるだろう、と出発期間までまたのんびり。

 
夕方早めにバス停へ向かうと、あれ?宿泊先のおばさんが手を振っている。彼女がバッグから取り出したのは僕の携帯電話の充電器。アパートに忘れて来たのを返そうと、一日持ち歩いてくれていたのだった。たまたま予定を変更したから受け取れたものの、危ないところだった。結果座席がなくて良かったのかもしれないと思いながら、最後までアマスラの人々の親切さに支えられながらバスに乗り込み、座席に身体を沈めて休んでみる。


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